キギの森
絵・文 マツオミホ
2007,Berlin
雪がとけた ある春のあさ
あさつゆを あびた土が ぷくぷくと 音をたてはじめました
あさひがのぼり あさいちばんの光が あたりいちめんを てらしたとき
ちいさな芽が いくつもいくつも でてきました
春いちばんの あたたかい風が ふきはじめたら にょき にょき にょき
キギたちが かおをだしました
「春だよ」「春だよ」キギたちはいっせいに とびだしました「春だよ」「春だよ」「春だよぉ」
いっせいに とびだしたキギたちは つぎつぎと はしりはじめました
、、、いったいどこへいくというのだろう、、、
ぞろぞろ ざわざわと みちくさもせず
はしりつづける キギたちは とおくの森をめざしているのです
そのころ 日はたかくのぼり おひるの光がさしていました
キギたちがとびだしたあとの土で ポンと ちいさな芽がひとつ
「春だよ」「春だよ」と いきおいよく とびでてきたのは キギでした
「春だよ」「春だよ」「春だよぉ」
「あれ だれもいない」さては はやすぎたのだろうか
それとも ねぼうをしてしまったのだろうか
「春だよ」もういちどよびかけても だれもいない
「おーい おーい 春だよ」ひとりぼっちのキギは
あちこちの キギのあなを のぞきこみ
さがしてみたのですが だれもいません
キギというのは 森のこどもです
あたたかい土でうまれたあと とおくの森をめざし 木になるじゅんびをはじめます

日がしずんでしまうと キギは根をはり 枝をのばし そして森になるのです
ねぼうをしてしまった ひとりぼっちのキギは
おおあわてで とおくの森をさがしました

はしっても はしっても はらっぱばかり 日はもうしずみかけています
とうとう日がしずんでしまい ひとりぼっちのキギは
うごけなくなり はらっぱのまんなかで 根をはり 枝をのばし 木になりました
雪がとけた ある春のあさ 春いちばんの あたたかいかぜがふきました
日がしずむまえ あたらしい葉をつけたひとりぼっちの木のもとへ
まいごのキギが ひとり はしってきました

ここは森ですか

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